久世光彦『早く昔になればいい』

久しぶりに子供時代を過ごした村に帰った主人公は、頭のおかしくなった大家の娘・しーちゃんのことを何度も何度も回想する。しーちゃんは好きだと言われれば誰にでも喜んで体を開き、奇矯な行動を繰り返していたが、川に落ちたことが原因で風邪を引き、そのまま死んでしまったのだった。自分も仲間と一緒にしーちゃんを輪姦した主人公が回想を繰り返すうちに、幻想が現実と交じり合い……といった簡単なストーリーすらどうでもいいほど、回想の中のしーちゃんが息が詰まるくらい綺麗で、綺麗で、綺麗で、どうしようもない。
赤い銘仙にシルクハット被って列車を追いかけるしーちゃんの描写なんか、あまりに綺麗で、今涙が出ればいいのに、と思った。地の果てが見える気がするような、そんな綺麗さ。
そのような綺麗さに浸るにはちょっと邪魔だったのが伸子のエピソード。あそこで少し現実に引き戻されたかも。あと、しーちゃんは死ーちゃんになって云々っていうのもどうかなあ。
しかし、こんな綺麗な描写に溢れた小説は久しぶりに読んだ。ラストの性行為に及ぶところまでひたすらに綺麗。これは、後に残るような、小説だと思う。