乾くるみ『林真紅郎と五つの謎』

ぬるーい本格ミステリ短編集かと思いきや……なんだか微妙に変な感じ。結果的には意外に楽しめたかも。若者を描写するときの寒さとか、主人公の名前がシンクローだからって推理するとき「シンクロする……シンクロする……」って何それとかそういうとこに目をつぶればけっこう面白い。
「いちばん奥の個室」とか「過去から来た暗号」に見られるように最初提示される謎が解決されると言うよりは解体される、もしくは完全にほっぽって終わり、みたいな結末のつけ方が読後感を普通の本格ミステリとは微妙にずらしていて、そこが読む上では楽しい。「陽炎のように」は探偵役の完全妄想型推理の失礼さ(葬式の真っ最中にあんな話をするのは不謹慎としか言いようがない)と幽霊を簡単に信じちゃう馬鹿さが作品を妙な具合に捻じ曲げていてこれもいい。
でも一番気に入ったのは「ひいらぎ駅の怪事件」かも。現場の構造がいまいち把握できなくて、そこが良かった(何だそれ)。あとがあんなふうに飛ばされるのを想像したら楽しかったってのもある。
という感じなのでメフィスト賞に執着してる人なら読んでみてもいいかと。裏表紙の「初期メフィスト賞が生んだ異才」という言葉がなんとなく笑えます(“初期”ってあたりが)。