藤枝静男『田紳有楽/空気頭』

◆「田紳有楽」
 読み終わってから知ったのだけど、この話は川上弘美のお勧めらしい。さもありなん……とまではいかないがなんとなくわかるような気がしないでもない。当たり前のような顔をしてシュールなことを語るとことかが共通してるかも。
 最初は普通の私小説風に始まるのだけどしばらくしていきなりグイ呑みが語りだし次は茶碗、丼鉢と次々無生物が勝手に自分の出自とか近況とかを語りだす。しかもグイ呑み(♂)は出目金(♀)と性行為もどきをして大量のミジンコを誕生させるし茶碗は人間に化けるし丼鉢は空飛ぶ円盤と化すし、しかもそれら陶器の持ち主は実は弥勒菩薩の化身だったりでもうわけわかんねえよーとなるのは必然。で、最後は陶器も神様もみんな一緒に大合唱で大団円。何だそれ。もう一度言う。何だそれ!
 誰かが言ってた「真面目な幻想文学」という言葉がこの話には似合う気がする。生真面目さが行き過ぎて妙に「ヘン」なものになってる印象。そしてそこにおかしみと切なさを感じるのだけど、ね。
◆「空気頭」
 これも変だよー。結核の妻の看病の記録みたいな暗い話が延々と続くから今度こそ普通の私小説かと思いきや、またも唐突に現実ではありえない事象が……えーと、中盤は糞尿と強精剤の話で埋め尽くされてます。おえー。そしてタイトルの意味がわかるあるアイテムの出自が語られたところらへんで唐突に終わり。えー?妻は?妻はどうなったの?
 むう。しかし僕はこちらのほうが気に入った気がする。やはり唐突に出てくる幻想的要素のいきなりさ加減と何食わなさ加減が好きだ。糞尿の話もいいなあ。これも哀愁とおかしみが同居してる感じで、しかも生真面目。実に不思議な読後感が得られます。