小林泰三『脳髄工場』

久々の新刊でほくほく。とは言え、角ホラの泰三短編集は微妙にユルいのがお約束であって、今回もご多分に漏れず。それほどの出来じゃないと感じる収録作もあって、「影の国」とか「タルトはいかが?」あたりについてはそんな感じ。
でもやはり好きなのはすごく好きだ。例えば表題作。自由意志の存在について悩む少年がおぞましい真実に行き当たるお話はいつも通りながら、脇の無意味なグロ描写のレパートリーの多さには感心する。人口脳髄のアップデート時にはオムツを着けていく風習だとか、その時にあたって仮死状態になった人間の様子だとかが実に気持ち悪くて美味。
他、「C市」のクトゥルフネタをいじくり回しすぎて原形を留めてない筋立ての得体の知れなさや、「綺麗な子」の“綺麗な子”を求める心理のグロテスクな描き方なんかも好き。ショートショートものでは「停留所まで」が泰三流怪談として質が良く、「アルデバランから来た男」の「ムッシュムラムラ!」と「シャランラ!」に笑った。

友桐夏『盤上の四重奏』

最高最高。『白い花の舞い散る時間』が気に入った人は絶対読むべき、な番外編。『白い花〜』の重要キャラを主人公に据えてあの物語の前日譚を裏から語る、というファン向けの趣向だけでなく、これ一作の読み心地まで『白い花〜』に似て甘く毒々しくてうっとり。
奇妙な館の外観を備えた学習塾が舞台な今作は今度こそまんま『麦の海に沈む果実』であって、世界観を形作る情景描写なんかではさすがに恩田陸に譲るものの、不穏なムードの身も蓋もない高め方やミスリードを誘う心理描写が意地悪でたまらない。幾重にも渦巻く陰謀の中で芽生えたロマンスが、それでも暗く光る様はすごく素敵。シリーズ続刊を切に希望しておきます。